農家の事業承継

農家の事業承継リアルインタビュー

農家の親と子の本音は?

実際に事業承継に直面した農家のリアルな話をインタビューしました。
事業承継を親(経営者)と子(後継者)それぞれの視点からみてみましょう。
インタビュアーは、自らも農家でありながら事業承継の支援を行っている事業承継士の伊東悠太郎さんにお願いしました。

  • K農場のお父さんに聞きました農家の事業承継リアルインタビュー

    石川県能美郡 米農家 面積80ha 法人
    事業承継のきっかけは”大規模設備投資”からはじまった。

    私が40代の頃(1990年代 )農家の法人化という動きがあり、県内農家では40歳前後で事業承継をするケースが多かったです。息子達が30歳を過ぎたときに、私の中で自分が事業承継した年齢に近づいているという意識がありました。

    そんな時期に大きな設備投資を計画していました。ちょうど良い機会だと思い、息子達に話しをすると、大きな反対もなく理解してくれ、事業承継の話が進みました。タイミングとしては良かったんだと思います。

    当時、息子達は後継者同士が集まるアグリファンド石川などの団体に入っていて、事業承継の意見交換も同じ世代で盛んに行っていました。だから息子達も少しは意識はしていたんじゃないかなと思います。早めに事業承継したことで、息子達も経営者として対外的に出ていく機会が増えて、以前より農業経営に対する意識が高まっていますね。

    事業承継は順序良く進めなければならず、分担も必要。

    事業承継といっても、いきなり私が全て息子に任せるということではないです。いきなり全ては息子も任せられたら困ると思います。

    私には長男と次男がいるので、業務の役割を振ったりもしています。会社として大きくなってくると、従業員を雇わなくてはいけないので、一人で全てを行うというのは難しいです。名義は全て息子になっていますが、支払い関係は私が担当しています。会計士さんの対応も比較的動きやすいので私が担当している業務もあります。

    ただ農業の現場は息子に仕切ってもらっています。現場かわからないと事業が大きくなったとき、従業員にどう指導していいのか、仕事を割り振りできないといけません。経理などの仕事は農業の現場をしっかり把握してから任せた方が、数字を扱いやすいと思います。

    今はまだ分担していて、完全に事業承継が完了していませんが、少しずつ進んでいるという感覚はあります。息子が会社経営としての経営判断ができるようになったときが、事業承継の最終形になると思っています。

    親子間での衝突はあったのか。解決策は?

    やっぱりありましたよ笑
    特に私たち世代については休みなく働くことが当たり前の時代でした。しかし、今は仕事も大事だけど家庭も大事。休みについてはしっかり取りたいという意見が、息子夫婦からありました。

    長男の嫁さんは仕事もしているので共働き。夫婦で仕事と休みのバランスを取っていかないと、喧嘩の原因にもなります。繁忙期でもうまく休みが取れるよう、息子たちとも話し合って連携をうまく取っています。

    家族間で問題や葛藤を溜めないようにするために、息子たちとは時間を作って飲みに行くなど話をじっくり聞く時間を取っています。

  • T農場の息子さんに聞きました農家の事業承継リアルインタビュー

    石川県能美市 米農家 47ha 法人
    事業承継を決意したきっかけは、思いもよらない父のプレゼンテーション!

    私が農家を継ぐと決めたのは高校3年生の時です。
    ある日、父から仏壇のある部屋に呼ばれました。二人きりで面と向かって話すという機会が初めてで緊張していると、父はいきなり約1,000万円はあろうかという現金を机に「ドン」と積んだんです。

    びっくりしていると、父から「農業は地域の期待を背負っているんだ」という話がありました。勢いに押され、私はその場で後を継ぐことを決意したんです。

    仕事をする上で、「どれだけ目立つことができてどれだけ期待に応えられるか考えてみる」という言葉は今でも農家としてどうあるべきかの指標になっています。
    事業承継をリレーで例えると、バトンを渡すタイミングばかり注目されがちですが、走り出す前の準備運動や並走する期間、渡し方など、考えることはたくさんあります。

    事業承継では、親子以外の第三者が入ったほうが良い。

    農研機構の方が調査のために石川を訪れていて、父が「私が大学を卒業したら農家になる」という話をしたところ、事業承継計画を立てましょうということになりました。その時点で父はまだ50代で現役バリバリ。まさかこんな話になるとは思っていなかったのですが、若いうちに変わった方がいいというアドバイスもあり、事業承継10年計画を立てました。

    短期、中期、長期と3区分に分け、具体的にやるべきことをリストアップして、実際に取り組みを進めました。計画があり、第三者の定期的なサポートがあったからこそ、その計画が実行できたのだと思います。父と私の視点だけでは到底10年ではなし得なかったです。第三者の視点があったからこそ、現実的で自分たちでも進められる実効性のある計画になったのだろうと思います。

    事業承継を進める上での課題は、引退戦略と技術承継の2つ。

    課題は2つあります。
    1つは父の引退戦略をどうするかということです。一応、父の70歳という年齢を期限とし、それを境に口を出さず、(既に代表権は変更してあるが)私の判断で農業経営を行うことになっていますが、あくまでも予定です。

    農業以外の部分で、父のやりがいや生きがいをどうやって創出していくかは、私だけが考えて解決することでもないので、難しいですよね。現場で気を張っているからこそ、元気でいられるかもしれないですし。

    もう1つは技術の承継です。父が長年培ってきた技術を、いかに私や従業員に伝えていくかということです。特にこの点は、感覚的な部分や目に見えないものが多いので、非常に難しいところです。

    私たちは、全農営農管理システム「Z-GIS」やトヨタ自動車「豊作計画」などを活用して、口伝したものを見える化する取り組みを進めています。見える化したものを読み解いてさらに理解してけるかというと、まだ十分ではないと感じています。

    ※参考:全農 ハッピーリタイアブック

  • N農場の息子さんに聞きました農家の事業承継リアルインタビュー

    石川県小松市 米農家 20ha 法人
    事業承継のきっかけ、流れを教えて下さい。事業承継で親子関係はどうなりましたか?

    当時67歳の父と43歳の私の喧嘩が発端で、「それなら社長をおまえがやってみろ」と、いきなりですが父から言われました。
    私もついつい熱くなってしまい、「そうするよ」と勢いで引き受け、社長交代の話が足早に決まりました。

    家業的な運営をしたい父親と企業的経営を進めたい私の意見が食い違っていたことがその原因でした。私自身は、事業計画書を作る過程で、40歳位で継ぎたいなとはイメージしていたので、社長交代によって事業承継も進むと思っていました。

    しかし、私が社長になってから、親子の会話がすっかり減り、思ったようにはなっていませんし、これまで私は販売に注力してきたので、特に技術的な部分での事業承継は進んでいないのが現状です。

    こうすればよかった、先に聞いておけば良かったということはありますか?

    社長になる前、親子で話し合いをしていても堂々巡りが続くことがあり、進展しない状況がありました。そのときに嫁さんが間に入って「この現状、従業員が一番困っているよ」と一喝。それで一気に動きました。嫁さんは家族ですが、そのときに明確な答えを出すには、血のつながりのない第三者の客観的な意見が必要なときもあるなと感じました。

    私と父は親子ですが、農家として家族経営になっています。一般の会社では考えられませんが、親子間で言わなくてもわかるだろうという一種の「甘え」が存在してしまうので、なかなか白黒はっきりさせる部分をうやむやにしたり、先延ばしにしてしまうことは反省しなくてはいけないです。

    家族以外で相談できる人はいましたか?

    当時、家族以外で相談できる人はいなかった、というよりも親子の喧嘩の延長でもあり、家族の中の問題という形で捉えていたので、誰かに相談するという概念がなかったです。相談する場所もなかったですしね。

    もし当時、事業承継について相談できる窓口があったら、相談していたかもしれません。ただ、事業承継は大事だという認識はあったのですが、お金のことに対してというイメージが強く、技術や顧客などももっと違う部分まで見ていかないといけなかったな、と思います。社会的に信頼のおける人から一言アドバイスがあったら、もっとスムーズに事業承継が進展する可能性はあります。

    事業承継を考えている人に伝えたいこと。

    もし、子どもたちが継ぎたいと言えば、継いで欲しいと思っている農家さんが多いと思います。私も子供たちが継ぎたいと言ってくれたら継いで欲しいですしね。
    でも、子供が継がなかった場合、従業員で引き継いでくれる人がいたら託すのか、それとも廃業するのか選択肢がいくつかあります。

    農業には定年がないですが、いつ何時何が起こるかわかりません。上皇陛下が生前退位を決断したように、例えば60歳で事業承継すると決めておいて実行するという形を決めておけば、親子で並走する期間もあるので、確実に技術もノウハウも引き継げると思います。

事業承継の定義や概念は非常に抽象的です。今回インタビューを通じて、色々な質問を投げかけさせてもらいました。その過程で農家さん自身が事業承継を強く意識したり、今後どうしていくかを整理したりすることにつながったのではないかと思います。事業承継は他者による質問を通じて「自己との対話」をしていくことで徐々にその輪郭が浮き上がってきます。更に対話を続けることで、よりはっきりとしたものになっていくのかもしれません。是非、この記事を読まれた皆さんも、周囲の方々と事業承継について話し合ってみていただければ、新たな気づきにつながるのではないでしょうか。

インタビュアー:事業承継士 伊東悠太郎さん

さあ、 事業承継の話し合いを始めよう

事業承継を考えている農家は、ぜひ一度、手に取って読んでみていただきたい。
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農家の事業承継

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